校長より

2018年入学式祝辞

自主・自律は力と調和を生み出す

 春爛漫の季節を迎えました。校内の桜の花は早くから満開となり、けやき坂のけやきは緑の葉をつけ、花壇には美しい花があふれ、皆さんのご入学を祝福しているかのようです。
 本日はご多用の中、多くのご来賓の方々にご臨席いただき、厳粛な中にも第七十三期生の温かい入学式を挙行できますことに対し、高い所からではございますが、心より感謝申し上げます。
 保護者の皆様、義務教育の最終段階であるお子様の中学校へのご入学、誠におめでとうございます。真新しい学生服に身を包んだお子様の姿が初々しく、まぶしく感じられていることと存じます。これからの三年間、共にお子様の成長のため、力をだしあってまいりましょう。ご支援、ご協力よろしくお願いいたします。
 大阪教育大学附属池田中学校(通称「附中池田」、「池中」)は、七十年以上の歴史を持つ伝統校です。本校は大阪教育大学の教育研究校・教育実習校として、また、文部科学省によって定められた教育基準に従った中等普通教育を実践する学校として、さらには地域の教員研修校として、大きな成果を上げてまいりました。それに加えて現在は、安全・安心な学校環境づくりはもちろん、グローバル社会に対応できる人間育成のための国際的な教育プログラムである「インターナショナル・バカロレア」教育に取り組んでいるところです。
 さて、改めて新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんのご入学を心から歓迎します。これまでの小学校生活を終え、今日から皆さんは晴れて中学生となりました。池中の一年生としての第一歩を踏み出すにあたり、今日、私は皆さんに、池中の教育理念である「自主・自律」という言葉をまず紹介したいと思います。
 「自主」とは、他人に頼らずに自分ひとりで行動することを意味します。また「自律」とは、外から決められたルールではなく、自分で決めたルールに従って行動することです。これらの意味からすれば「自主・自律」とは、「他人に頼らずに、自分で決めたルールに従って行動すること」となります。このように理解すると、「自主・自律」を実行する人は、随分と「自分中心的な人」、いわゆる「ジコチューな人」のような印象を受けるかもしれません。しかし本当にそうでしょうか。
 そこで次に紹介したいのは、この「自主・自律」を現す典型的な人物であると私が考える新宮晋(しんぐう すすむ:一九三七年(昭和十二年)生まれ)さんです。新宮さんは今年八十一歳になる世界的に有名な彫刻家・造形作家であり、池中の第五期の卒業生でもあります。皆さんは彼の作品を、すでに一つは目にしています。池中の玄関前の小学校側の方に、白い三角錐を三つ組み合わせた大きな立体作品がありますね。これは新宮さんの作品です。この作品は、池中が創立五十周年記念に制作を依頼して、一九九六年にキャンパス内に設置したものです。
新宮さんはこの作品に『帆走する雲(セイリング・クラウド)』という題名をつけています。「帆走(セイリング)」とは、「船が帆を張って風の力を受けて走ること」です。この作品は、風が吹くと白い三角錐の部分が独立して動く仕組みになっています。風を受けて白い雲が勢い良く流れていくイメージを現したものでしょう。新宮さんはこのように屋内ではなく屋外に展示して、風を動力にして動く立体作品を数多く作っています。彼はこれらの作品を「風のアート」と呼び、その作品は一眼見れば、新宮さんの作品と分かるくらいのユニークなものです。
 新宮さんは、どうしてこのような作品を作るようになったのでしょうか。彼はまだ若い頃、自分の作品のスタイルを確立しようと躍起になっていた時期に、自分で作ったレリーフ(浮き彫り)作品を木につるしてみたことがあったそうです。すると作品が風を受けて動きだした。この体験で、「見えない風が見える作品が作れるんじゃないか」と思いついたのだそうです。それ以来、新宮さんは「風のアート」にこだわり続け、さまざまな作品を発表し続けています。彼は言います。「馬鹿みたいだけど、純粋なことに賭けてみたい。アーティストの役割はそこにある」と。
 「風のアート」の特徴は、一見すると金属などでできた大きくて重そうな立体作品が、目に見えない風の力によって、想像もできないほど軽やかで面白い動きをする点にあり、意外性と楽しさに満ちています。美術的な見方からすれば、この面白さ・楽しさは、自然の風を受けて人工の物がバランスをとりながらリズミカルに動くことからくるものであり、そこに私たちは、自然と人との目に見える「調和」を感じることができるでしょう。また、普段は目には見えない風が、実は大きくて重い金属を動かすほどの「力」を持っているということにも気づきます。けれども大事なことは、新宮さんはこのような自然と人間の「力」と「調和」の体験を、自分だけではなく、他の人にもアートによって伝えようとしている点です。彼は言います。「アートは、人と人の心をつなぐものだ。このアートの本来の力で、地球の自然を守りたいという人の心をまとめていくことができる」。
 新宮さんの作品の一つであり、池中のシンボルである『帆走する雲(セイリング・クラウド)』は、生徒の皆さんに「自主・自律」の意味を教えてくれています。彼は人真似をすることなく、試行錯誤しながら自分独自の作風を確立しました。自分のアートの信念に従って、作品を制作し続けています。その作品は自然と人との調和、それを生み出す力のシンボルとなっています。この力は作品を見た人の心を捉え、自然と人、人と人とを調和に向かわせるのです。
 このようなことから、「自主・自律」は、ひとりの人間の自分中心の行動を現すものではなく、実はまったく逆であり、「力と調和」を生み出すものであると言えます。ひとりの人間の信念を持った自主的・自律的な行動は、周りの人の心に共感を与え、まとめる力となり、調和を生み出すのです。そしてこのような行動ができる人は、新宮さんのような特別な才能や能力を持った人に限られるわけではありません。誰でもが実行できることなのです。新入生の皆さんには、このことをぜひ実行していただきたいと思います。池中の先生方が授業や学級活動を通して、また池中の生徒の先輩方が体育祭や文化祭、部活動や生徒会活動を通して、そのような機会を与えてくれることでしょう。
 これから始まる池中での生活を、皆さんが自主・自律、力と調和で満たしていくことを期待して、式辞といたします。

2018年4月6日
大阪教育大学附属池田中学校 校長
瀬戸口 昌也